開業時の思い出 宮 本 勤 |
T.お産の往診 開業したのは今から約30年前であったが、当時のお産は専ら産婆(今の助産婦)によって済まされていたので、難産となると産科医が往診することになる。新規開業医は不便な遠方の往診とか、夜間、雨天などの天候の悪い時が多いのはやむえない。当時の往診用乗り物は、この地方での先輩は人力車を利用していた。患者が重症の場合は急を要するので、車夫が二人で医者の人力車を引くのである。一人は正規の枠の中で走り、更に一人は綱で前の枠を結んで肩の上から引いて前向きに走る。所謂二人引きでスピードを出す。 |
U.患家での子癇処置
子癇発作の連続で、更に病院への患者輸送の万策つきた場合があった。産婆には鉗子・鉗子とせがまれ、やむなく高位の鉗子を決意した。縁側まで産婦を引き出して、私は土間に降りて無理な鉗子を施行しました。案の定強度な膣壁会陰裂傷と更に恥骨結合開離が起きて半年も腰がたたず、加えて尿道口が横の方へ移動して排尿方向が横向きになった為、産褥の往診を長期間よぎなくさせられた。当時の苦しい思い出が眼前に彷彿とするが、親子共に健康となり、既に孫までもうけて感謝されている幸運な症例もある。 |